日本的コミュニケーションの特徴として、日本人は、はっきりノーと言うのを好まないため、否定的な情報を伝える時、意図的に婉曲な表現を用いることがあるといえる。それは、日本人が否定の気持ちを表現する事にためらいを感じ、相手に与える失望感を和らげようと考えるからである。
日本的コミュニケーションの例として、西洋のビジネスマンと日本のビジネスマンの会話が挙げられている。商談の結論を求める西洋人の問いに対し、会社のノーという返事をはっきりと伝えたくない日本人が、何度もお茶を勧めたり、無関係な話を持ち出したりして、相手が察してくれるのを辛抱強く待っているという場面である。この日本的婉曲表現に対する外国人の反応は次の4つに分けられる。
・好意的意見(13%)
少数の人々は、“外人こそ日本的ノーに慣れるべき”と捉え、商談を成立させるためには、日本人の性質を理解し、配慮することが必要であると考えている。また、イギリス人の場合、日本人の婉曲表現に対し最も好意的で、“自他の自我を保護してくれる”という点に価値を見出している。つまり、婉曲表現は時間の浪費ではなく、むしろ、自分の置かれている状況を判断するための価値ある時間であるといえる。
・中立的意見または条件付き賛成(34%)
中立的意見として、“婉曲表現を、日本独特のものであり、外人に分かるはずがないと考えるのは危険である”という見方や、“婉曲表現はゲームである”とする見方がある。
条件付き賛成意見には、“日本人同士なら問題はないが、外国人に適用すると誤解のもとになり、危険である”という意見が多い。
・感情的反発(28%)
氷山の一角しか表現されない日本人の婉曲表現において、その全貌を推測するには相手の勘や察しが必要となるので、以心伝心に慣れない人々には、混乱や苛立ちの意見が目立つ。また、日本人の、言葉の裏の意味や暗示にばかり気を配る察し合いには批判が多く、何事も言葉を使ってはっきり言うアメリカ人と、暗黙の了解こそ価値があると考える日本人の建前が対立している。同時に、人間関係の捉え方にも建前の違いがあり、グループへの帰属意識が強く、グループなしに個人はありえないという個の捉え方の中で、常に相手を一段上位におくことを建前とする日本人には、客観的に相手の言葉を聞き流すのは難しい。
・道義的反発(25%)
日本人の婉曲表現は不誠実で無礼であり、日本人はもっとはっきりイエス・ノーを言うべきである。道義的見地から非難する意見の中では、とくにアメリカ人が攻撃的である。
(出典)
pp.148-161
書名 『欧米人が沈黙するとき』
著者 直塚玲子
出版年 1980年
出版社 大修館
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